2010年10月3日日曜日

なぜGoogleはThe Document Foundationを本格的に支援しないのか?

疑問形のタイトルがついた書籍が流行っているという話を聞いたのでさっそく便乗してみました。

さて、SunがOracleに買収された事でどうなるかが注目されていたOpenOffice.orgですが、コア開発者の一部がThe Document Foundationという組織を新たに設立し、Oracleとは袂を分かつ事がどうやら決定したようです。

The Document Foundation設立の発表の際には、いくつもの企業から祝辞が送られたようですが、その中にはGoogleの名前もありました。GoogleはGoogle Summer of Code等でOpenOfficeとも縁がありますし、OSSを推進するGoogleが今回の件で祝辞を述べることは当然だろうと私も思います。

しかし、この件への感想の中には
GoogleがThe Document Foundationのスポンサーになって本格的に支援してくれるに違いない
という期待(?)を込めた意見もあったようです。

私はこの意見にはちょっと同意できません。
GoogleがLibreOfficeの開発者を雇用する事はあるかもしれないが、The Document Foundation自体を本格的に支援するような事はないだろう
というのが私の意見です。

以下では、どうして私はそう思うのか?を説明してみたいと思います。


「なぜGoogleはThe Document Foundationを本格的に支援しないのか?」という問題を考えるために、まずは「Googleが目指す目的とは何か?」という問題を考えてみたいと思います。

Googleが目指す目的は色々あると思いますが、企業向け分野でのGoogleの目的は、企業内で情報システムの保守運用や開発をしている部門(以下、情報システム部門)をぶっ潰して消滅させることなのは、皆さんとっくにご存知の事だと思います。

Googleの創始者が企業の情報システム部門にどんな恨みを抱いているかは定かではありませんが、Googleがその目的を達成した暁には、企業の情報システム部門は、総務部総務課情報システム係まで格下げされることでしょう。
ここまで強く情報システム部門を憎んでいるからには余程強い恨みがあったとしか考えられません。ひょっとすると就業中にポルノ画像を見ていた事を上司にバラされたのかもしれません。

さて、Googleのこの崇高な目的を達成するための通過点の一つが、最近話題のクラウドコンピューティングです。
クラウドコンピューティングの目標は、従来は企業内で保守運用されていたサーバをアウトソーシングして、それらを保守運用していた情報システム部門の人材を減らして部門の勢力を削ぐ事にあります。副次的な効果として人件費が浮くので経営者もノリノリです。どこかの企業のTVのCMでも見ながら「やっぱりこれからはクラウドで経費削減だよなー」等とニヤニヤしながらつぶやいているに違いありません。

次に、クラウドコンピューティングの目標が達成されるとどうなるか?を考えてみましょう。
企業内で保守運用されているサーバと言っても種類が色々ありますが、ここではメールサーバで考えてみたいと思います。
GoogleにはGoogle Appsというサービスが既にあり、企業向けのGmailもありますので、ここでは少し大きめの企業のメールシステムをGmailで運用してみたと仮定してみましょう。さて何が起こるでしょうか?

朝、出社後の作業の一つは溜まってるメールを読む事です。月曜や休み明けにはうんざりする程のメールが溜まっているのはお約束ですよね。
Google Appsは極力ネットワークに負荷をかけない作りになっていますから、見ているPCの画面に収まる程度の件名リストや実際に見ているメール本文のデータしかネットワーク上を流れないはずです。
ですから、例え出社時間の直後、企業の社員全員が同時にメールを読み始めてもネットワークは十分に耐えられるに違いありません。
しかし、実際にはネットワークは負荷で悲鳴を上げ、全体が不調になるような事態が頻繁に発生する事が容易に予想できます。
予想される原因は添付ファイルです。

企業でメールに添付される添付ファイルはいわゆるオフィス文書と呼ばれるファイルが大半だと思いますが、そのデータのサイズはメール本文と比較すれば桁が1、2桁違います。出社直後に社員全員が一斉に添付ファイルを開こうとして、Gmailのサーバから手元のPCに添付ファイルを読み込もうとすれば、例え社内のネットワークは耐えられても、社外に繋がる回線がとても耐えられません。Googleは最近話題になったWebP等の技術を開発してネットワーク帯域を減らす努力を続けていますが、添付ファイルはその努力を無に帰す程の帯域を消費してしまいます。

これでは困りますので、社内メールにファイルを添付する事を禁止して、添付したいファイルは社内のファイル共有サーバに置くようにしてみましょう。これならネットワーク帯域の問題は解決するように思えます。
しかし、この解決方法は、Google的には間違った解決方法です。
何故かと言うと、社内のファイル共有サーバを管理する人が情報システム部に必要になるからです。この方法では前述したGoogleのクラウドコンピューティングの目標を達成できません。

よって、Google的に正しい解決方法は、

  • オフィス文書は新規作成されてから削除されるまでデータの実体はクラウドにあり続けるべきである。クライアントPCにデータ全体を読み込まなければいけない作業(例:印刷)は極力避けることにする。
  • オフィス文書の内容を作成、閲覧するアプリケーション(以下、オフィスソフト)は、オフィス文書のデータ全体ではなく、必要な部分をオンデマンドに読み込む事で、使用するネットワーク帯域を極力減らす仕組みを持たなければならない。
  • オフィスソフトはWebアプリケーションである方が好ましい。これはクラウドコンピューティングと直接は関係無いが、情報システム部門の仕事を出来るだけ減らすというGoogleの目標と一致する。

という事になると思われます。

ですから、Googleはまだまだ機能は少ないですがGoogleドキュメントの開発を続けていますし、Microsoftは社運をかけてOffice Live、オンライン版のMicrosoft Officeを開発しようとしています。ネットワーク帯域に負担をかけないオフィスソフトがクラウドコンピューティングで求められているアプリケーションである事を認識しているからです。

ここまで読んで頂ければ、「なぜGoogleはThe Document Foundationを本格的に支援しないのか?」の答えもお分かり頂けると思います。
端的に言えば「LibreOfficeはGoogleの描くビジョンとは相容れないから」ということになります。
もう少し正確に言うと、GoogleはLibreOfficeの文書フォーマットを必要としていますし、オフィスソフトの開発経験のある開発者も欲していると思いますが、ソフトウェアであるLibreOffice自体には興味が無いだろうという事です。

ですから、もし、LibreOfficeを支援するような企業が現れるとすれば、それはクラウドコンピューティングに逆行するような未来を思い描く企業という事になります。
企業がクラウドコンピューティングとは違うビジョンを描く事は、別におかしい事でも何でもありませんが、そのような企業が自社を宣伝する時に、Googleの威を借りる目的で安易にクラウドという単語を使っていた場合、「LibreOfficeを支援しているのにクラウドとか言ってるのは変だよね。」と言われかねません。

残念ですが、The Document Foundation全体を支援してくれるスポンサー探しはかなり難航することになるだろうなーというのが私の予想です。

4 件のコメント:

  1. >Googleの目的は、企業内で情報システムの保守運用や開発をしている部門(以下、情報システム部門)をぶっ潰して消滅させること
    そ、そうなの?

    >社外に繋がる回線がとても耐えられません。
    そ、そんなことで?

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  2. yajbjodds555さん

    >そ、そうなの?
    その部分はあえて誇張して書いたつもりだったのですが、分かりにくくてすみません。少し真面目に書き直すと、

    Googleの企業向けサービス部門は、企業に情報システムの保守運用や開発を行う専門の部門が必須ではない未来をビジョンとして持っていて、情報システム部門で必要とされる人数を減らすというミッションに沿った活動を続けている。クラウドサービスの提供はその活動の一つでしかない。

    というのが私の意見です。時系列的には前後しますが、

    http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/event/20101125_409101.html
    クラウド導入で情シス部門は不要? 「プライベートクラウド」をテーマに議論 -クラウド Watch

    という記事で「クラウドサービスの導入により情報システム部門で必要とされる人数が減り、IT業界は大リストラ時代になるのでは」という懸念が紹介されています。
    私はこの懸念に対して、情報システム部門で必要とされる人数を減らすことがGoogleの元々の目標なのではないか?と考えているわけです。

    >そ、そんなことで?
    回線が耐えられないという言い方では納得できないようでしたら、月曜の朝はネットワークが混みすぎてまともな業務にならないという言い方だと少しは納得していただけますでしょうか?

    ちなみに想定していたのは、4桁の社員が25GBのメールボックスを3年で使い尽くす程度の組織でした。

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  3. あ、「25GB」は「一人当たり25GB」のミスです。失礼しました。

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  4. 150人程度の会社で社内SEをしてます。

    確かにクラウドでうまく運用できれば、情報システムの人数は減ると思います。先にそれ以上にSIerの人数が減りそうですね。小さな会社の情シスはもともと人数が少ないです。

    >4桁の社員が25GBのメールボックスを3年で使い尽くす
    かなりの大企業ですね。
    うちは小規模ですので100Mのベストエフォードで十分です^^;
    そこまで大きいと回線の強化が必要ですね。

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